5.疑念

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新年、仕事始めの朝は、例年通り社長の年頭の挨拶から始まる。 私たちは通常より10分ほど早く出勤するのだが、私は更に早く出勤するつもりでいた。 あの厄日以来、皆より早めにオフィスに着いていたいと思うようになっていた。強迫観念ではなく。 そもそも、一人暮らしで大してやることも無い私なのだから、他の家族持ちの同僚たちと比べれば、こんなことはなんでもなかったのだ。 会議室は7階フロアーに2箇所、6階にミーティングルームがあり、それぞれに全社員が集まり、社長室からモニターに生中継される。 その後、上役たちは役員との会議となり、続けて外回り、賀詞交換会などでオフィスには戻らない。 かく言う私も、こんな小さな専門商社なので、社内に篭っている訳にはいかない。 打ち合わせがてら、挨拶に何社か回る。が、今年は数日後回しだ。なんなら、あや美に任せてしまおうか。 ミーティングルームから戻ると、出社してきた派遣たちの姿があった。だが、やはり滝沢さんは来ていない。 もちろん、四方堂君もいない。辞令は掲示板に張り出されていたらしかったが、私はわざと見なかった。 今日明日は、室長も次長もオフィスにいないから、ある意味私は自由だった。 あや美とのランチ。いつもの定食屋で、休み中に早川先輩と会ったことを話した。あや美は驚いていた。 「芽衣子さんたら、行動が早いですね!」 そして、先輩からいろいろ聞き出したこと。詳細は省いた。 これから、来週月曜日に予定している月例会議に向けて、自分なりに調べてみると話しておいた。 あや美は、それなら自分もなにか手伝いたいと、やはり言い出した。 「芽衣子さん一人でやるなんてダメです。私もひと役買います!」 なんだか張り切って言ってくれた。
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