5.疑念

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私は、あや美も四方堂君も、この件はただ遠くから見守ってくれればいいと思っていた。 もししくじったら、糾弾されるのは私一人でいいのだから。 「あや美は、私がなにかをやっているという事だけ知っていて。あなた達を巻き込むことは、私にはどうしても我慢ならないの」 『ええぇ!そんなぁ』とのあや美の不満は消えなかった。午後から出先に飛んでもらって、ふくれっ面を遠ざけた。 私は人事の美波のところへ行った。 人事も上司不在で、美波は同僚たちとはしゃぎまくっていた。暇な訳ではなさそうだが、あのお喋りはきっと止むことがないのかもしれない。 私は、『相談』という形で、滝沢さんが無断欠勤していること、今後ももしかしたら続くかもしれないということをオフレコで美波に話した。 『まぁ、良くあることよ』と、美波は訳知り顔で頷く。へぇそうなんだ、私には初耳だけど。 一応、上司と相談して、本人とよく話すようにとアドバイスを受けた。 そして、あくまでもついでの事のように、『そう言えば』と、営業部の南雲さんについて探りを入れてみた。 「南雲さん?なぁにぃ、男の話なんて珍しぃじゃないの」 「いや、そんな人いたのも知らなかったんだけど、滝沢さんと話した時に名前が出たものだから、どんな人かなぁと思って」 嘘だったけど、この際、滝沢さんにはひと役買ってもらおうと思っていた。恐らく本人の耳に入ることはないだろうと踏んでいた。
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