5.疑念

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美波の話だと、南雲さんは早川先輩の一つ上の入社の34歳。(アラフォーじゃないじゃん) 眉目秀麗で頭も切れ、なんでもソツなくこなす営業向きの性格とのこと。実際、営業成績はトップクラスなのだと言う。 が、美波もあまり好きなタイプではないと言った。そのひと言で、南雲さんという人が一体どんな人なのか、益々分からなくなった。 百聞は一見にしかずとばかり、私はその足で7階営業部へと向かった。 わが企画室は、営業部と業務上の関係は濃いのだが、部署のトップ同士が犬猿の仲のせいか、署員同士の絡みはほぼ無かった。 仕事に支障のない範囲で、関わらないような関係性ができあがっていた。南雲さんを知らなかったのは、私が迂闊なだけでなく、そのせいでもあった。 だから私は、営業部に出向くのがものすごく苦手だ。いつだって、『企画の女子が来た』と、ジロジロ見られるのだ。 この時間帯、恐らく何人もオフィスにはいないだろうとの、予測か希望的観測か、営業部の入口から恐る恐る目だけ突き出して、キョロキョロと眉目秀麗の男性を探した。 かなり怪しいと思うが、誰も気がつく気配はない。 数人の若手男性がいて、電話をかけたり打ち合わせをしたり、元気に声を張り上げていた。なんか活気のある職場だなぁという感想を抱いた。 私は怖気付いて、誰が南雲さんなのか、見分けもつかないし、今日は戻ろうかと思った。 その時、頭をパスンとなにか軽いもので叩かれたので、飛び上がらんばかりに驚いた。危うく悲鳴を上げそうになったが、寸でのところで抑えた。
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