5.疑念

5/26
前へ
/310ページ
次へ
「お前、なにしてんの?もしかして、俺のこと探してる?」 「わ、四方堂君」 この人の存在を忘れていたため、なんとなくバツが悪かった。 「いやぁ、そういう訳では…」 私は、頭をポリポリやって、ここでは話せないなぁと、四方堂君をスルーするための理由を速攻で考えていた。 すると、私の言い訳が出てくる前に、四方堂君が口を開く。 「早川先輩、なんて?」 いや、気になっているのは百も承知だが、今ここで説明する訳に行かないでしょ? 私は四方堂君の問い掛けは無視した。そして、別のことを尋ねる。 「ね、南雲さんてどの人?」 「南雲さん?なんで?つかさ、お前、南雲さんを知らないの?」 うわぁ、知らなくてまずかったの?直接関わったことないから、知らなかったんだけど。 うんまぁ、と、こめかみをぽりぽりとやった。 「あの人だよ」 四方堂君が顎で尺って教えてくれたのは、営業1課の課長と打ち合わせ中の男性だった。 眉目秀麗かどうかはさておき、生真面目そうな太い眉と贅肉がほとんどないかのような体躯が『シュッとした』、感じの良さそうな人だった。 「あ、ありがとう」 私は四方堂君にお礼を言って、打ち合わせ中に分け入る訳にはいかず、出直すことにした。と言うか、やっぱりアポをとった方が良さそうだ。 自分のオフィスに戻るため、クルッと回って歩き出すと、四方堂君が『だから、なんだって?』と声を掛けてきた。 「また今度!」 私は四方堂君を躱した。四方堂君は新しい職場で目いっぱい頑張るだろうから、きっと余裕ない。事の決着がつくまで、この身を躱そうと思った。 それと、南雲さんというひとは、一見、早川先輩や美波が言うように『好きになれない』ような男性には見えなかった。話してみたら分かるのだろうか。
/310ページ

最初のコメントを投稿しよう!

49人が本棚に入れています
本棚に追加