5.疑念

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今日一日、四方堂君の異動話と飲み会の話を完スルーした私。あや美は飲み会をやりたがって、幹事に立候補していた。私は気持ちに余裕なく…。 コーヒーとケーキの後片付けを一緒にやってから、あや美とみちるには先に帰るように促した。『私もすぐ帰るから』と言い添えて。 5時半、フロアー全体で、6、7人がチラホラと残っているのが見えた。わが職場には、次長とおじさん社員の二人がいた。恐らく、このあと飲みに行くのだろう。 既にコートを羽織りバッグも持って、二人が退社するのを見送った。 私は徐ろに電話に手を伸ばし、営業部の内線に掛けてみた。あちらはまだまだ業務多忙の真っ最中だろう。 「あの、企画室の松浦ですが、南雲さんはいらっしゃいますか?」 南雲さんになにか用?ってなことを聞かれはしまいかと、ドキドキしていたが、なにも聞かれることなく、すぐに南雲さんに繋いでくれた。 「南雲ですが。どちら様ですか?」 ちゃんと伝わらなかったようで、私は自分の部署と名前をフルネームで名乗った。 「あぁ、松浦さん」 私を知ってるんだ…私のなにを知っているのだろうと考えると、途端に弱気になる。 「あの、突然すみません。南雲さんにお尋ねしたいことがありまして…明日、お時間を頂くことはできますか?少しでいいので」 私は、電話ではなに一つ話したくはなかった。とにかく時間だけ作ってもらえたらと、哀願するような心持ちでいた。 「仕事?じゃないよね。プライベートならオッケーだよ。定時後、下のエントランスでいい?」 アポイント、即決してしまった。 南雲さんは、交渉事がさぞかし上手いのだろうなと感心してしまった。こちらの思惑など、一顧もせず。 『あぁまさか、愛の告白とか思ってないよね』
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