5.疑念

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「私ね、お正月に高松に行ってきたんです」 早川先輩と親しかったのだから、これだけで、私が先輩に会いに行ったのが分かったはず。 「……」 「早川先輩とは連絡取り合ってないのですか?」 「…私の話の答え合わせをしてきたんですか」 滝沢さんの口調が固くなった。やはり、私には、早川先輩と会って欲しくなかったのかもしれない。 「と言うより、より詳しい話を聞けたらと思って。まぁ、久しぶりに先輩に会いたい気持ちの方が大きかったけれど」 「…」 「早川先輩、お元気そうでしたよ」 私は口調を緩めた。 「…そうですか。良かった」 「ご実家に戻られたのはこの年末で、それまでは東京でやって来られたそうですが、体調を崩されて続けられなくなったそうです」 「…」 疎遠にしていた友人の苦労話を聞けば、なぜ自分は疎遠にしてしまったのだろうと、後ろめたささえ感じてしまうのが人情ではないだろうか。 「滝沢さん…先輩は、会社のことはもういいって言ってました。辞めた直後は、そりゃ悔しさもあったようだけど、今は本部長には感謝しかないと思ってるって」 「嘘。早川さんはあなたに詭弁を使ったのよ。本部長に感謝なんて」 「早川先輩とはちゃんと話せたと思うわ。実はあの後、本部長は、早川先輩にはちゃんとフォローしてくれていたそうで」 そうだったのかとの、滝沢さんの心の声が聞こえたような気がしていた。 いつまでもされた事を忘れられず、人を恨んでいたのは自分だけだったのだと。 「早川先輩は、先に進もうと頑張ってこられた。そして、これからも、先輩は頑張って行くんだろうと私は感じました」 「…私にどうしろと?」 「別になにも。ただ、私が願うことがあるとしたら、滝沢さんも前に進んで欲しいなって」
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