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定時、あや美とみちるを帰してから、ボードに『外出』と書いて、エントランスホールに向かった。
定時直後の自社他社入り交じるビルのエントランス。雑多な人混みの中に、南雲さんの姿を見つけた。
軽く挨拶を交わしてすぐに歩き出し、近くの小さな飲み屋に落ち着いた。
南雲さんは屈託なく話す人で、私には感じが良い人にしか見えない。
ビールと煮物、焼き物をツマミに選んだ。
「松浦さん、それで?四方堂の様子でも聞きたいとか?」
「え、四方堂君?あぁ、それもそうだけど、違います。それより、南雲さんは私のことを知っていたんですか?今までご一緒した事はなかったと思いますけど」
すると南雲氏、ふっとひとり笑い。もしかして、私の武勇伝は営業部まで…と、気持ちが後退していくのが分かった。
「松浦さん、我が社では有名だもんね」
やっぱり…。
「お恥ずかしい…」
へこんだ。久しぶりにへこんでいた。いや、年末以来か。
南雲さんは笑っていた。
「松浦さんからお声が掛かるなんて驚いてさ。僕も自分なりに理由を考えていたんだ。四方堂じゃないなら、なに?」
この人には率直に行こう。私は勇気を奮った。
「南雲さんは、早川先輩…早川奈美子さんのこと、一時期でも恨んでいたことがありましたか?」
「早川?」
南雲さんはかなり意外な名前を聞いたのだと思った。ビールを飲みかけて固まっていた。
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