5.疑念

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「不躾な質問だと承知しています。でも、はっきりと答えをお聞きしたくて…早川先輩からはだいたいのことは聞いていますから、そのつもりでお答えください」 南雲さんの朗らかな表情が顔から消え去った。沈んだ?へこんだ?不愉快には違いなかった。 私はその顔を見て、すみませんと俯き加減でビールに口をつけた。 「驚いたなぁ…早川さんか…会ってるの?」 「最近、事情があって久しぶりに会いました」 「そう。元気にしてた?」 「はい、今はお元気そうでした」 そうか、と南雲さんは呟いて、なんとなく虚空を見つめているように見え、私はしばらく黙って待った。 すると、南雲さんは、グラスのビールを一気に飲み干し、ゆっくりと話し出した。 「彼女のことは、ずっと好きだった。僕の気持ちは受け入れてもらえなかったけど…聞いたと思うが、どちらかと言えば迷惑がられていたんだ。分かっていながらどうしても諦めきれなかったんだ」 私は、南雲さんの寂しそうな目に引き込まれていた。コクンと頷いて、話を促した。 「長いことアタックしてたけど、結局、別の男に横からカッ攫われて…悔しかったよ、かなり…だけど、彼女を恨んだことは一度もないよ。強がる訳じゃないけど、そういうの…もうダメだというのはとっくに分かっていたからね」 そう言ったあと、南雲さんは照れくさそうに笑顔になった。ちょっと、私、キュンとしてしまった。 「そうでしたか…正直に話してくださってありがとうございます」 私は両掌をテーブルにつけて頭を下げた。だけど、謎は残った。南雲さんでないなら、一体誰?
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