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南雲さんはビールを追加していた。ツマミの煮物に箸をつけ、ちょっと機嫌良さそうな顔つきだ。
「ま、若い時の恋なんて、大抵散るものだからな。僕はこれからは結婚を前提にした恋愛をするつもりなんだよ」
「はい?」
急に話が変わって驚いていたら、南雲さんはキリッとした目で私を見つめた。
「早川さんを恨んでいたと言ったら、君はどんな話をするつもりだったんだ?」
なんだこの話の持っていき方は。私は内心オタオタした。
「あ、と…あの、実は私、早川先輩が退職したきっかけになったある一件を調べているんです。なんでも、早川先輩を陥れるための讒言があったらしくて。それで…もしも南雲さんが早川先輩に対して恨むほどの気持ちがあったのなら、その告げ口をしたのは南雲さんじゃないか、と…すみません」
私は肩をすぼめて話した。まるで悪戯の言い訳でもしているように心苦しくなっていた。
南雲さんは、テーブルについた右手の人差し指でトントンとテーブルを叩きながらなにやら考えているようだった。
「ねぇ松浦さん。もしかしてだけど、なんかあったの?そのことに起因しているなにかがさ。でなければ、今更って感じだよね。それに、調べて分かったことろでどうするの?」
全部話す気にはなれない。そこまでこの人を信用していいか、分からないし。
どこまで話そう…。
「ちょっと…ありました。早川先輩の処分を不服に思っていた人がいて…一石を投じたというか。それで私は、早川先輩の懲戒解雇が不当だと会社に訴えたいのです。先輩は終わったことだと言ってました。でも、私は本当のことを知った以上、黙ってなんかいられないんです」
言葉を選びつつも、一気に話し出すと興奮を覚えた。少し息が弾んで、私はなぜか目の前の煮物をひと口食べてゴクンと飲み込んだ。
「正義感?」
うぅ…ん、ちょっと違うかも。私は首を捻った。
「説明が難しいんです」
南雲さんはクスッと笑った。なんでそこで笑うの?
「とにかく、高まる感情の落としどころを探してるんだね」
「はぁ…まぁ、そういうことですね」
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