5.疑念

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南雲さんが早川先輩を陥れた張本人という線が消えた今、次に打つ手に行き詰まる。 そうしているうちに仕事に忙殺され、なんの動きもできぬまま時間ばかりが過ぎて行くのかな。 翌日の水曜日。ノー残業デーなので、残らずに済むよう、朝からシャカリキだった私は、またしてもミスをやらかした。 いや、ミスとは言えないか。トラブル?事故?どちらにしても、私に責任のない巻き込まれ系だ。 だけど、時間を1時間、無駄にさせられた。 ランチタイムの直前に外出先から戻った私は、エレベーター内にとじこめられてしまったのだ。 緊急通話ボタンでセキュリティーの人を呼び出し、対応してもらっていたが、1時間もかかってやっと出ることができた。 その間、一基しかないエレベーターの故障に、ランチに行く人たちの文句や不満の唸り声は中まで聞こえていた。『誰かいるの?』との問いに、『企画室の松浦さんらしいよ』で、ドキドキしたし、『あの人なにかといろいろやってくれちゃう人よねぇ』の言葉に軽く傷ついてもいた。 『嗚呼、いたたまれない…』 どうか、この扉が開いた瞬間には、工事の人以外誰もいませんようにと祈るばかりだった。 そんなトラブルのせいで、気分はダダ下がり、仕事へのモチベーションを保つことが無理っぽくなった。 この調子だと確実に残業だった。もちろんサービス。泣き。しかも、お昼ご飯にありつけなかった。大泣き。 私の不運に同情して、あや美が出先から軽食を買ってきてくれた。持つべきものは気の利く後輩だ。 私は少しだけ上向きになった気持ちで、仕事をこなしていた。
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