1.厄日

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「ちょっとね」 四方堂君に見つめられながら、私ははぐらかした。 「それより、婚約おめでとう。ちょっと、早めに教えてくれれば良かったのに」 私に言える精一杯の抗議はこの程度だ。 「うん、なんか、言いそびれちゃったよ」 嘘ばっかり。手軽に抱ける女が手放し難かったんじゃない?それとも…私の気持ちに気がついてたの? 声にならない声が、心で弾けた。そして、疑念は確信に近づく…。 ガヤガヤとオフィスに人が戻ってきた。四方堂君は体を起こし、片手をスラックスのポケットに突っ込む。 「まぁ、とにかく」 元気出しなと、私の頭をポンとやってどこかへ行ってしまった。 四方堂君は四方堂君なりに、私を心配してくれていたのは間違いない。でも…。 ギリギリとした悔しさではなかった。尤も、今日はいろいろあり過ぎて、体調も万全ではないし、もしかしたら、通常モードに戻った時に物凄く感情が乱れてしまうのかな。 残りのサンドイッチを口の中に押し込んで、お茶で流し込む。そしてすぐに薬を飲み込んだ。 午後一の会議が変更になったことで、午前中からなんとなく忙しないオフィス内。 週の半ばの、水曜日の今日はノー残業デイだから、残ってもサービス残業になるため、皆、予定の狂った業務を時間内に収めるために加速気味だった。 終業後、フロアー内は若干名居残りがいた。私は、急ぐ仕事ではなかったが、朝の罪滅しのつもりで、少し残ることにした。 『芽衣子さぁん、この後ご飯行きませんか?』とのあや美の誘いは断った。 ただ、ランチから断ってばかりでさすがに悪いと思い、明日のランチにイタ飯屋に誘った。あや美はキャンキャン喜んで帰って行った。
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