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真山説に微妙に乗りきれていない私に、次第に熱くなった南雲さんは、次々と持論を展開し熱弁を奮った。
つまり、南雲さんが感じていた印象だけで、早川先輩と真山さんの関係をぶった切ったのだ。
「早川さんにはもっと、彼女の魅力を引き出したり、新しい世界を見せるとか、苦手に挑戦できるようにとか、なにか彼女の成長に一役買えるような男が相応しいんだ。それにひき替え、真山って奴は、若いのに年寄りみたいな生き方のつまらん奴なんて、なんで…」
南雲さんの悔しさはまだ気持ちの底に燻っているのではないのかと思えてきた。
過去の失恋話というより、今でも充分引き摺ってますよぉ。
「確か、私が入社する前のクリスマスから解雇までですから、6年と7ヶ月はお付き合いしてましたよね?結婚の話はなかったんでしょうか。南雲さんがご存じのわけないですよねぇ」
私は取ってつけたような笑いで、自らの質問をウヤムヤにしようとした。
「結婚は、彼女の方が渋っていたんだろう」
「え、なんで?」
早川先輩、そう言えば、結婚願望はないようだった。『私はそういうのに縁遠いのよ』などと、結婚を牽制するような言動をよくしていた気がする。
「あの、もし二人の、結婚についての価値観が違っていたとしたら」
「上手くいくわけなんかないだろうね」
仰る通りで。
「なら、あのふたりは上手くなんていっておらず、先輩が懲戒解雇となったことをきっかけに、あっさりと別れが決まったのは当然の成り行きってことでしょうか。若しくは、真山さんにとっては渡りに船…」
「いや、僕はそうではないことを考えていた」
南雲さんは、難しい顔つきだった。上司との打ち合わせでもにこやかな人なのに。
「むしろ、結婚に同意もしないでズルズルつき合うことを不満に思っていた真山が、なにかのタイミングで、自分の労なく別れられると、ついか、うっかりか、口にしてしまった言葉があったとしたら」
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