5.疑念

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私は空恐ろしくなった。恋人だよね。そこに愛はなかったの?そんなふうに陥れるみたいなやり方しか、真山さんには選択肢がなかったの? 私はふと、四方堂君のことを思い出していた。 あの人は、私に好意くらいはあったはず。なのに、不義理すぎる仕打ちをした。二人きりの時に話すことより、皆と同じタイミングで婚約話を伝えた。こんなに残酷な仕打ちはないんじゃないか? それとも、そうするしか道がなかった?話そうと何ヶ月も迷った?もしかしたら何年も?いや、数日でも、伝えようという気概はあったのだろうか…。 「真山さんは、一度でも早川先輩に別れたいと伝えていたのかな?それで、先輩が取り合わなかった、とか」 「それはあるかもね…だいたい、真山って奴は、性格的に難があるって言うか、多分、自分の女に対して横暴なクセに優しい振りをする、みたいな」 「なんか、悪口っぽくないですか?」 南雲さんは、またまた私をじろりと見てから、両手を開いて『どうかな?』との態度を見せた。 長い脚を組んで、ぶらぶらとさせている。 「早川さんに振られた直後にさ、悔しくて、あいつの顔を直接見に行ったことがあったんだ。ちょっと、喧嘩売る感じで」 ほぉ…なかなかの男気ですね。 「真山さんて、南雲さんが先輩を口説いていたこと、知っていました?」 「まぁね。僕は結構大っぴらだったから、社内じゃ有名だったんじゃないかなぁ」 ふふん、となぜか得意げに話すのが、不気味だ。じゃあ、振られたことも全社的に知られていたってことよね?ふふん。 「わかった。南雲さん、虫除けのつもりだったんじゃありませんか?」 「まぁね」 「でも、真実の愛には効き目がなかったということですね」 少し茶化してみたら、南雲さんの組んだ脚のぶらぶらが止まった。なにやら不服そう。
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