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私は空恐ろしくなった。恋人だよね。そこに愛はなかったの?そんなふうに陥れるみたいなやり方しか、真山さんには選択肢がなかったの?
私はふと、四方堂君のことを思い出していた。
あの人は、私に好意くらいはあったはず。なのに、不義理すぎる仕打ちをした。二人きりの時に話すことより、皆と同じタイミングで婚約話を伝えた。こんなに残酷な仕打ちはないんじゃないか?
それとも、そうするしか道がなかった?話そうと何ヶ月も迷った?もしかしたら何年も?いや、数日でも、伝えようという気概はあったのだろうか…。
「真山さんは、一度でも早川先輩に別れたいと伝えていたのかな?それで、先輩が取り合わなかった、とか」
「それはあるかもね…だいたい、真山って奴は、性格的に難があるって言うか、多分、自分の女に対して横暴なクセに優しい振りをする、みたいな」
「なんか、悪口っぽくないですか?」
南雲さんは、またまた私をじろりと見てから、両手を開いて『どうかな?』との態度を見せた。
長い脚を組んで、ぶらぶらとさせている。
「早川さんに振られた直後にさ、悔しくて、あいつの顔を直接見に行ったことがあったんだ。ちょっと、喧嘩売る感じで」
ほぉ…なかなかの男気ですね。
「真山さんて、南雲さんが先輩を口説いていたこと、知っていました?」
「まぁね。僕は結構大っぴらだったから、社内じゃ有名だったんじゃないかなぁ」
ふふん、となぜか得意げに話すのが、不気味だ。じゃあ、振られたことも全社的に知られていたってことよね?ふふん。
「わかった。南雲さん、虫除けのつもりだったんじゃありませんか?」
「まぁね」
「でも、真実の愛には効き目がなかったということですね」
少し茶化してみたら、南雲さんの組んだ脚のぶらぶらが止まった。なにやら不服そう。
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