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「芽衣子さんたら、仕事となるとホントに真面目なんですねぇ。尊敬しちゃいますぅ」
あや美はマジマジと私を眺めて、ため息混じりにカシャカシャとキーボードを叩き始めた。
「馬鹿ね。私なんて尊敬の対象にしちゃ駄目よ。あや美はもっと上を目指してちょうだい」
パソコン画面から目を離さずそう言った。謙遜ではなく、本気でそう思っている。
私は、自分自身の評価がうんと低い。自分を卑下しているというのとはちょっと違う。でも、その辺りのことは、自分でもよく分からないのだ。
もしかしたら、家族のことがあるのかもしれなかった。両親の借金の金額を想像しただけで悪夢を見る。
そういうことで足を掬われる人生の末路を決定づけして、自分には価値がないとか、能力や魅力がないとか思っている。
だから…人と距離を置きたがる。
私は、家のことを自分の悩みを誰にも知られたくない。悩みがあることさえ…。
一生、誰にも秘密にしていたい心の闇なのだ…。
2時半頃、あや美が唸り始め、それから10分もしてから奇声を上げたのを合図に、私たちは休憩を取ることにした。
室長に断って、上のラウンジへあや美を引っ張って行った。
「芽衣子さぁん、私にはキツいですぅ。集中が続きませぇん」
「はいはい、分かってるって…自分で調整しながらやってちょうだい。私のペースは常人離れしているらしいから」
以前、仕事の遅れを取り戻すために、こうして休みなく仕事をこなす私に、四方堂君が常人離れしていると呆れていたことがあった。
上司や同僚たちに迷惑を掛けるぐらいなら、自分を殺してでもできる限りのことをしておきたかった。
真面目などではなく、怖がりなだけ。あや美はそこを勘違いしている。
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