1.厄日

15/38
前へ
/310ページ
次へ
あや美が帰って行く後ろ姿を見るにつけ、この7つも年下のギャル上がりが、なぜか私に懐いていることが不思議だった。 入社以来8年、社内で誰とも友達になれるほどの友好関係を築いてこなかった。 年下から慕われることもなく、同じ部署の派遣女子達2人に至っては、恐らく私には尊敬の欠片もないだろう。深く関わらないで済まそうとの思いが透けて見えるほど、時には辛辣に私に接してくる。 あや美って子は、誰に対してもそうなのかと思えば、ちゃんと苦手な人もいるし、そういう人にはちゃんと嫌われていると、ある時聞かされていた。 それほどなのに…私はこの後輩と、深く付き合う気は毛頭なかった。嫌いという事ではなく、ありがちな嫉妬とも違う。あや美は容姿には特筆すべきところは無かったし、さして優秀でもなく、至って普通の子なのだ。 だから、四方堂君のことも話さなかったし、これからも打ち明ける気はない。 イタ飯屋というのは、会社から歩いて5分程の路地裏のような場所に建つビルに入った小さなお店だった。 安くておいしいと評判が良い。 ネットで席もお料理も予約ができるので、短いランチタイムには重宝なお店だ。もちろん、定食屋よりは少しばかり値が張るが。 有言実行とばかり、早速、私はパパッと予約を済ませた。 1時間ばかりのサービス残業を終えようとした時、あや美からのライン。 『明後日のこと、今日話せなかったので…よろしくお願いしますね!』とあった。 『…忘れてたよ』私は吐息を洩らす。 明後日は、この部署の忘年会だった。しかもクリスマスの当日の金曜日っていう日。派遣の女子たちが、『不参加じゃダメですか!?』と、強めの抗議をしてきた件の。
/310ページ

最初のコメントを投稿しよう!

49人が本棚に入れています
本棚に追加