6.告白

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「はい。実は、早川奈美子さんのことで。お付き合い、されていたんですよね?最近、早川先輩と会って聞きました」 そこに注文したコーヒーが来た。真山さんは開きかけた口元をキュッと結んで、ウェイターの一挙手一投足を見つめていた。 ウェイターが一礼して立ち去ると、コーヒーには目もくれず、口を開いた。 「奈美子とはつき合いがあった。それで?」 話しの方向性が見えず、相変わらず刺すような視線で私を見る。というか、探っている。 「私は、ある事情から、早川先輩が辞めた時の一件を調べています。その件についてはご存知ですね?」 言葉の途中から、真山さんの固い表情に緊張が走ったような感じがした。 「まぁ…奈美子から聞いている範囲では、ですよ。あの件は社内でも取り沙汰を懸念する声があって…私たち総務部の者は、ほとんど耳にしないうちに事の収束を見たようですし」 概ね私が知る範囲の事情だ。 「…私は、真山さんの他、数人の人から既に事情は聞いているんです。その当時、早川先輩と直接関わりのあった人たちです。その人たちから、ある証言がありました」 一拍置くが、真山さんは口を挟まない。 「率直にお尋ねしますが、真山さんは早川先輩の解雇の原因になり得る、ある発言をしたと、私は考えています。違いますか?」 心臓が早鐘を打つ。手汗がやば過ぎて、ハンカチを握りしめた。 暫し無言。私の言葉を聞いている間、真山さんは驚きと怒りを顔に表していたが、私の言葉の圧力に耐えているようにも見えた。 私は続けた。 「私がこの件を知ったのは最近です。早川先輩が懲戒解雇だったことも知りませんでした。話を聞けば、誰かの、たったひと言の嘘で先輩はクビになった可能性が高いんです…そんなこと、あってはならないですよね」 真山さんの表情が、変わった。なんだか顔色も悪い。それでも、怒り出すこともなく、ただ黙って聞いていた。真山さんの目線は、斜め下方…そういえば、滝沢さんがこんなふうに目線を逸らして、私の追及を受けていたっけ。
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