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「醜い…男の嫉妬なんだ…営業の、南雲って奴、知ってる?」
私は内心、あっと思った。なんとか表情に出さずに済んだが、瞳孔の動きはあったかも。
「はい、分かります…早川先輩が南雲さんのことを好きだったと仰るんですか?」
「そう。そう思っていた」
「それは誤解なんじゃありません?根拠はなんですか?先輩には確かめたことなんですか?」
「…」
そんなのたまらない!そんな根も葉もない妄想から、先輩は…。
「もしそれが事実だというなら、先輩はなぜ真山さんとつき合ったんです?南雲さんを好きなら、先輩は容易く彼とつき合えたはずです」
「そうだ…だからこそ、奈美子があいつより僕を選んでくれたことが嬉しくて、有頂天になっていた」
ん?『あいつより?』それって…。
「あの…もしかして、早川先輩とつき合うより前、真山さんは南雲さんとなにかあったのですか?」
組んだ両手を口元で動かしている。少し落ち着かない様子は、隠したいなにかのせいなのかな。
「そのことは…勘弁してくれないか」
なんなの?
私は、『男の嫉妬』というワードをよく考えてみた。そんなの、全然分からないけど…真山さんは、もしかしたら…。
「あの、真山さん?嫉妬というのは、もしかして、早川先輩に対してではなくて…南雲さんに?」
真山さんは完全に俯いてしまった。答えるのは、確かに恥ずかしいことかもしれない。そんな感情、私なら、絶対に人に知られたくはない。
「君…松浦さんは、そういう気持ちになんてなったことはないよね。そういう子だと、奈美子がよく言っていた。だから、余計に恥ずかしいよ」
下を向いたまま、真山さんは囁くように言った。
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