6.告白

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「その南雲さんが先輩に交際を申し込んでいたことを知ったのと、真山さんが先輩を好きになったのは、どちらが先なんですか?」 答えによれば、私は真山さんを許せなかったと思う。でも、これを確認しなければ先に進めない。 「松浦さん、それは大丈夫。そこまで下衆じゃないよ、僕は」 その言葉を聞いて、私はホッと息を吐いた。良かった。 「松浦さんは、本当に奈美子を思ってくれているんだね」 真山さんは穏やかな微笑を浮かべて、私を褒めてくれているかのように感じた。 「早川先輩にはすごくお世話になったんです。仕事のことを教わっただけでなく、真山さんに話されたみたいに、多分、私のことを陰でたくさんフォローしてくれていたんです」 こうやって、いろいろな人たちと話していくうちに、今更ながら私は、先輩から守られていたんだと思えるような言葉をいくつか聞いてきた。 私にとって先輩は、返せないぐらいの恩があるんじゃないかと感じてきたのだ。 「そうか…僕はね、長く南雲への嫉妬心を抱えてきた。あんなふうに営業でバリバリと活躍できるのは、本当に一握りの人材だよ。それに比べて…比べるなんて愚かだと今は思っているけど、その時は、経理っていう地味で活躍もできない職種しかなかったんだろうかと、悔やんでばかりで」 会社という組織は、たくさんの部品でできた巨大で精密な装置のようなものだと、いつも感じている。 私のような凡人の代わりはいくらでもいる。部品の代わりはいくらでもあるんだ。 だけど、どうだろう。派遣の滝沢さんという部品を欠いた我が部署の惨状は。 その穴を埋めようとガタガタ音を立てている。抜け穴の隣の小さなネジのようなみちるさえも今や欠きそうで、私たちはその状況を恐れおののいている。 不用な部品など一つもない。そのことを真山さんは、今は既に悟っていると表情からは見て取れた。
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