6.告白

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焦るまい…と、私はまたしても、汗した手の中のハンカチをギュッと握って堪えた。 「矢崎営業部長だよ」 スルッと真山さんの口から飛び出したのは、黒幕に相応しい人物だった。 本部長とは犬猿の仲。 直接話したことはないけど、部下のミスにはたいそう厳しい言葉を吐くことで有名だった。 四方堂君から聞いた話では、大の男がトイレで号泣するほど、精神をズタズタにされるのだと。本当だろうかと、俄には信じられなかったが、真山さんの言葉が事実なら、四方堂君の話にも真実味が加わる。 「矢崎部長は、どういうつもりで真山さんの言葉を悪用したのでしょう」 早川先輩など、どうなってもいい…最早、その結果が招く一社員の行く末など、念頭にも無かったか。 「恐らく、矢崎部長が考えていたのは、藤間本部長の退陣、若しくは派閥勢力の減退」 「やっぱり、派閥争いがあったんですね」 下々の者には到底分からぬ世界。このまま知らぬ振りをしたいのは山々だけど…。 「うちは小さな商社で、昔は家族的な雰囲気で小さな商売をやっていたんだそうだ。それが、今の社長になってから、なんだかおかしなことになり始めた。藤間さんは元々営業畑の人なんだが、矢崎さんに蹴り飛ばされる形で商品企画本部長になった」 ん?ということは、営業よりうちは格下ってこと?との、声なき私の疑問に真山さんは答えてくれる。 「どっちが上位とかではなくて、派閥なんだよ。本宮社長、常務、営業部長の本宮派と松橋副社長、本部長の松橋派。専務は日和見主義者らしい。うちはかなり古い体質の会社なんだよ」 なるほど…そういう勢力図だったのか。初めて知った。四方堂君や南雲さんは知っているのかな。て、知ってるに決まってるか。
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