1.厄日

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今回の宴会は、あや美と四方堂君が幹事だったが、私は当日の助っ人で受付と集金係だったのだ。 当初、忘年会の開催は12月初頭だった。私の部署の商品企画管理室は本部長直下の組織で、忘年会などには本部長も参加する。 そして、これも御大の都合でこの日に変更となってしまったのだ。 『まぁ、私はいいけどね』誰かさんは大丈夫なのかなぁ?などと、やっかみ半分冷やかし半分、わざと心中で呟く。当然、誰かさんとは四方堂君のこと。 あや美には『大丈夫、忘れてないよ。明日話そ』と返して、帰宅のため席を立った。 下腹の痛みは薬のおかげで治まっていた。効いているうちに帰ろう。 帰り際、トイレに寄る。自然と目はあの若草色のポーチを探す。が、『ない…帰ったか』と、少しホッとした。 『それにしても、誰なのだろう…』ポーチの持ち主の正体が気になっていた。 まず顔が浮かんだのは、自分の部署の2人の派遣。気が強い、押しが弱い、ドライな対応、表面的には親切…。そんな、勝手で大雑把な評価しかなかった。 『この人たちのどちらかだったら…』 持ち主が分かったら、直接謝ろうとも思っていた。でも、あの2人の顔を思い浮かべていたら、このままの方がいいと考え直していた。向こうだって私だとは知らないのだから。 会社を出ると、雨はだいぶ前に上がっていたことに気がつく。道路が粗方乾いている。 傘を手に歩き出すと、全身に風を受けた。「うぅぅ寒っ」と唸ってしまう。 昼間の予想通り、風が強くてかなり冷え込んできていた。 朝、バタバタだったから、防寒のマフラーや手袋などは持っていなかった。 私はウールのコートの襟を立て、バッグを胸に抱えながら歩き続けた。昼間買ったレジ袋を腕に引っ掛けていたから、歩く度にポンポンと跳ね上がった。
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