7.援軍

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そんな私の様子を隣からあや美が見つめていた。 「芽衣子さん、本部長と約束ですかぁ?」 あや美はみちるの仕事を肩代わりしていて、かなり忙しそうだ。今夜はあと2時間は帰れないだろう。でも、なぜかご機嫌でこなしている。 「うん。あや美が頑張っているのにごめんね。仕事は持ち帰るわ」 私から月曜の会議の議題に掛ける懸案は、早川先輩の件だけではなかった。四方堂君なき後、私には実力以上の仕事を振られていた。 正直キツイけど、キツイ時に頑張って実力以上の仕事をやりきった時に、きっと成長できた自分に会えるよと、昔、早川先輩に言われたことがあった。 残念ながら、今までこの言葉を実践することは無かったけれど、今、どうやら私は成長期らしかった。 本部長からは、20分後に連絡が入った。ビルエントランスを出て、道路脇で待っていろとのことだった。 私はあや美に『それじゃ、また来週ね』と告げた。 あや美はにっこり笑って、両手でガッツポーズをして見せた。 きっと、このあと本部長とどういうテーマで会うことになっているか、あや美にはなんとなく分かっているのだと思った。 あや美って子は本当に不思議だ。まだ若いのに、こういう配慮を相手の気負いを誘うことなくやってのける。 私は、あや美には人間力で敵わないと思っていた。そして、それがなぜか嬉しく思えるのだった。 道っ端でキョロキョロしていたら、タクシーが横付けし、ドアが開いた。本部長が後部座席の奥に収まっている。 「お待たせ。乗りなさい」 私は『失礼します』と言い、乗り込んだ。本部長と2人きりでタクシーに乗るのは初めてだった。もちろん、2人で出掛けるのも。 内心のドキドキはさっきからずっとだから、むしろドキドキに慣れてきていた。 「珍しく芽衣子君から話というから、良いところに連れていってあげよう」 『うへ』怪しいおじさん感半端ないセリフ吐きました。タクシー運ちゃん、お願い、誤解しないでね。
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