7.援軍

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タクシーが停まったのは、なんとなく『密会』が似合いそうな店構えの料亭だった。男女だけでなく政治家とか。なんか越後屋と悪代官がかつて…などと想像が膨らむ。 「芽衣子君、遠慮なくやってくれ」 個室に落ち着き、早速、ビールやら先付けやらが出てきて、注文なんて本部長がひと言伝えただけで済んでいた。 ひと呼吸する間もなく、次々と美味しそうな料理が出てきて、飲むのと食べるのが忙しく、話なんて無理っぽかった。 どうやら本部長は、すっかり食べてから本題に入るつもりなのだと、メインの飛騨牛のしゃぶしゃぶを口に入れた瞬間に悟った。これは、話をしながらなんて…。 料理を楽しみ、お酒も頂いて、私は割とご機嫌に仕上がっていた。南雲さんや真山さんたち平社員とは天地の差ぐらいあるなぁなどと、悦に入ってもいた。 純米吟醸をゆっくり味わいながら、本部長はのんびりした口調で問い掛ける。 「それで、芽衣子君の仕事でない話というのは?」 私は仲居さんが置いていったお茶を飲みながらまったりしていたけれど、一瞬で現実に引き戻され、酔いも醒めかけた。 「はい…あの、例の会費紛失の件が発端で、年明けから少し調べていたのですが。実は、滝沢さんはそれに関連して退職しました。今は守谷さんがお休みしていて、我が部署は多忙を極めています」 「人員補充しろということか?」 なぁんだ、そんなことかといった顔つきで本部長は私の顔をじっくり観察し始めた。それでも、そんな程度の話なわけがないと既に悟っていたに違いない。それか、はぐらかし?
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