7.援軍

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「それはぜひともお願いしたいことに違いないですが。今日わざわざお時間を頂いたのは、別の話なんです…早川奈美子さんの退職に纏わる不正に関して、本部長とご相談しておきたいと思いまして」 純米吟醸を飲みかけていた本部長の両眼が、ジロリと私を刺すような鋭い眼差しに変わる。脅しとか威嚇ではなく、元々の地顔故に何気なく向けた視線にもハクがつくのだ。 「穏やかじゃないな。その不正に関して証拠立てて話すことは出来るのか?」 「はい、証人が数人。既に証言はとれています」 私も負けじと目を見開いて真剣な面持ちで訴えた。 「当事者は?」 「矢崎営業部長です」 なるほどと、本部長は手にしていた飲みかけのお猪口をテーブルに置いた。 「不正というのは?どこまで知っている?」 「取り引き相手へのプレゼンを実際にしていたのはうち、若しくは営業部ですが、早川先輩がいた頃、相次いで競合に負け赤字決算を余儀なくされました。情報漏洩を初めに言い出したのは矢崎部長ですよね?本部長への攻撃を画策した目的は、本部長の降格か左遷などだと思うのです。矢崎部長がうちにいた派遣の伊藤さんに事前にデータを持ち出すよう指示していた。それか、誰かに指示させていたんだと私は考えています。それが事実と証明できたなら、矢崎部長を社への背信行為で訴追できます」 腕を組み、すっかり渋面で話を聞いていた本部長が、ギョロリと目玉だけを動かして、私に話の先を促した。 私は勇気を奮う。 「矢崎部長たち上の人たちからの追及を受け、本部長は伊藤さんという実行犯が言った言葉の精査も行わないうちに、早川先輩の解雇を急ぎましたね。私はこのことに納得が行かなくて、こんなことを調べる気になったのです」 言葉を切り、私は息を整え続ける。 「本部長、私は、早川先輩の懲戒処分を取り消してもらうことが望みです。そのために、会議で執行役員たちをも追及します」 「…そうか。まあ、そこまで知っているのなら…」 本部長は、次の言葉を躊躇ってでもいるのか、暫し無言でいた。
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