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2時間の定例会を終えると、会議室は潮が引くように人がいなくなる。
私は、各部署の派遣社員たちに会議室を整えてから戻るように言って、あや美を連れてオフィスに戻る。
「ねぇ、あや美。うちらの右前方の後ろの席にいた男の人なんだけどさ」
やっぱり気になって仕方ないので、道道あや美に振ってみた。
「あ、もしかして、なんかやつれた表情の40才ぐらいの人?」
「あ、そうそう。そんな感じ」
さすがの勘の良さ。
「どこかで会ってると思うんだけど、思い出せないのよ。誰だか知ってる?」
「実はぁ、私もどこかで見たなぁと、会議中ずっと考えてたんですぅ」
「じゃあ、もしかして、私たちが一緒の時に会っているのかもね」
そういう機会はあり過ぎるほどなので、いつどこでがはっきりしない以上、私は思い出すことを諦めることにした。
記憶の淵に引っかかった事柄が、時を選ばず不意に降りてくることがある。
今回はあや美にそれが起きた。
夕方から3人で、みちる不在の時に溜まっていた雑事を片付けている時だった。
廃棄書類のチェックをしていた私に、突然あや美が突進してきて覆いかぶさるように抱きついた。
「芽衣子さん!思い出しましたよ、あの人!ほらほら、あの時の、あの、ラウンジの人ですよぅ」
ラウンジと聞いて記憶を巡らす。あや美とラウンジに行ったのはつい最近だ。『あ』ハッとした。そういえば、私たちがヒソヒソとやっている時に、なにか書き物をしていた男の人…。
「あ、あの人か」
「はい!あの疲れた表情がすごく印象に残っていました。今日は、あの時よりかマシでしたね」
「うん、確かに」
思い出したからといってなんだというほどのことでもないが。すっきり感は味わえた。
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