7.援軍

17/22
前へ
/310ページ
次へ
2時間の定例会を終えると、会議室は潮が引くように人がいなくなる。 私は、各部署の派遣社員たちに会議室を整えてから戻るように言って、あや美を連れてオフィスに戻る。 「ねぇ、あや美。うちらの右前方の後ろの席にいた男の人なんだけどさ」 やっぱり気になって仕方ないので、道道あや美に振ってみた。 「あ、もしかして、なんかやつれた表情の40才ぐらいの人?」 「あ、そうそう。そんな感じ」 さすがの勘の良さ。 「どこかで会ってると思うんだけど、思い出せないのよ。誰だか知ってる?」 「実はぁ、私もどこかで見たなぁと、会議中ずっと考えてたんですぅ」 「じゃあ、もしかして、私たちが一緒の時に会っているのかもね」 そういう機会はあり過ぎるほどなので、いつどこでがはっきりしない以上、私は思い出すことを諦めることにした。 記憶の淵に引っかかった事柄が、時を選ばず不意に降りてくることがある。 今回はあや美にそれが起きた。 夕方から3人で、みちる不在の時に溜まっていた雑事を片付けている時だった。 廃棄書類のチェックをしていた私に、突然あや美が突進してきて覆いかぶさるように抱きついた。 「芽衣子さん!思い出しましたよ、あの人!ほらほら、あの時の、あの、ラウンジの人ですよぅ」 ラウンジと聞いて記憶を巡らす。あや美とラウンジに行ったのはつい最近だ。『あ』ハッとした。そういえば、私たちがヒソヒソとやっている時に、なにか書き物をしていた男の人…。 「あ、あの人か」 「はい!あの疲れた表情がすごく印象に残っていました。今日は、あの時よりかマシでしたね」 「うん、確かに」 思い出したからといってなんだというほどのことでもないが。すっきり感は味わえた。
/310ページ

最初のコメントを投稿しよう!

48人が本棚に入れています
本棚に追加