7.援軍

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「あんな人、このフロアーにいましたっけ?」 あや美の疑問は尤もだった。会議室でのあの辺りの席は『ギタイ』と呼ばれる技術対策室の塊だった。でも、これまで、30代後半から40代前半と思しきその人を同じフロアーで見たことがなかった。 「ギタイよねぇ?」 ギタイは、主にクレーム対応など、自社開発製品の技術的な顧客対応をする部署ながら、閑職でもあった。 厄介者が集められてそれなりの役割を与える。その半面、商品知識がしっかりした者がいなければ勤まらない。 このギャップのため、ギタイの構成メンバーは、なんとなくだが半数の者はいつも暇そうにしている。 そんな私たちの会話に、そばにいたみちるが加わる。 「どの人のことですか?」 それで、あや美が立ち上がって『その人』を探した。 私たちの部署とはパーティションで仕切られていて、件のギタイは、部署を一つ間にした遠目になる。 「あ、いた。やっぱいるんだ…全然知らなかった。みちる、あの人、知ってる?」 私も中腰で首を伸ばしてそちらに目を向けた。 その人は、こっちに背中を向けて座っていた。頭頂部が薄くなりかけ、白髪も目立っていたからよく分かった。 「あぁ、あの人のことなら、更衣室で聞いたことがあります。確か…吉森さんですよ」 ん?吉森?どこかで聞いたような…。 「中途採用とか?」 あや美が可能性を探っている。知りたいと思うほどの何があるのか。吉森某とやらの風貌が特異であったためかもしれない。私たちの好奇心は止まらなかった。
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