7.援軍

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コンビニからオフィスへの道すがら、俯き加減で歩いていたあや美がボソッと話し出す。なんだか、疲れてでもいるみたいな横顔だ。 「芽衣子さん…あのぉ、芽衣子さんは、会社、辞めたりしませんよね?」 「え?」 どしたどした?急に…。 あや美は、この時ばかりは視線を私から外していた。 さっきの、吉森さんの話題から、今回の本部長とのやり取りの事を思い出して、なにやら連想してでもいるのだろうか。 「…辞めたいとは思ってないよ」 なに言ってんの、と言って、背中を叩けば良かったかもしれない。でも、あや美のマジな感じの横顔を見ていたら、自然と本音が出てしまった。 「芽衣子さんが、もし、早川先輩みたいに辞めさせられたら、私ぃ…」 泣き出すかと思ったら、あや美は急な勢いでこちらに顔を向け、いつもの笑顔を見せた。なぁんちゃって、という感じで舌をペロッとした。 「もぅ、やだな!あや美ったら」 私はプンプンした振りをして、早足で先を歩いた。目尻に涙が滲んでいた。 笑顔のあや美が私に追いつこうと小走りになった。ずずっと鼻を啜ったような音が聞こえたけれど、知らん顔してオフィスへと急いだ。 戻ると5時半だった。フロアー内は半数ぐらいの人がまだ残っていたが、私たちは構わず間食を広げた。 案の定、次長が寄ってきてたかり始める。甘いものに目がないのだ。実際、それを見越してチョコレートを買ったようなものだったけど。 「松浦さん。今日はご苦労さんだったね。それでさ、今度の担当者会議には出られる?」 チョコレートを頬張りながら、次長が割と重要なことを気軽に言った。 「営業部との、ですか?」 四方堂君は出ていたけど、私にはあまりお声がかからない会議だった。いよいよ責任重大だ。 「本部長もね、松浦さんにはそろそろテーマ絞ってやってもらいたいって言ってたし」 「そうですか。私も気を引き締めてやらないとですね」 私のような者が立たなければならないなんて、人材不足なんじゃない?などと、弱気な私が胸の中で突っ込みを入れている。 「芽衣子さぁん、すごいですよねぇ。やっぱり努力は報われるのですねぇ」 はははと笑って頭をポリポリやった。努力しているように見えていたのかと、なにやら照れくさかった。
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