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寒風吹き荒ぶ1月も末、本部長との約束の場所へと歩き出した。会社を出ると、街の店先には『ハッピーバレンタインデー』の飾りやらポスターが目についた。
最近は、女性同士のやり取りを楽しむコンセプトが一押しらしいが、それでも、恋人に贈る方が、買うにしたって楽しさは倍以上だと私は思っている。
『去年は四方堂君を誘ったら断られたんだよねぇ…その時に、彼女の存在を気づけてたらなぁ』
プレゼントより一緒に食べて楽しんじゃえば重くならないかと、チョコレートメーカーのカフェに誘ったんだっけ。
そう言えば、あや美から毎年貰っていたのに、ホワイトデーはデスク周りにある飴やガムをかき集めて誤魔化してしまっていた。
単に忘れていただけなので、あや美も喜んでくれてたし、悪いとも思わなかった。
「今年はあや美ちゃんとみちるちゃんに奮発するかぁ」
私は普通のボリュームでひとり言を押し出した。
何となく、あの子達のことを考えると、頑張らなくっちゃと力が湧くのだ。
まるで私は働き盛りのお父さんだ。姉とかじゃなくて。
最寄り駅に到着して、約束の店に入った。習慣で、いつもの席に勝手に座ろうとしたら、本部長との待ち合わせを思い出した。
『そうだった。馬鹿だなぁもう…』
私は、マスターに2名で予約が入っていると思うと伝える。
「あ、承っております。個室の方へどうぞ」
マスターは手にしていたグラスとオシボリを持ち直し、奥の個室へと案内した。
そこの人に目が行ったのはたまたまの偶然だった。が、まさしく、アイツがびっくりしたような目で私を見つめていた。
「あ、こんばんは」
連れがいて、同年代の女性だった。その人は、アイツと私の顔を交互に見ていた。
『デート中か、なかなかやるな、お主…』ふぅん、綺麗な人。女性の方に黙礼して、「それじゃ」と、すぐにその場を立ち去った。
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