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そう言って、本部長は静かに語り出した。
営業部長の右腕として、業績アップに多大な貢献してきたこと。
策略と分かっていながら、本部長を貶めるための役割を言い使ってきたこと。
伊藤さんを巻き込むため、男女の仲になってまで手なずけていたこと。
いよいよ王手というところで、本部長があっさり事を収めてしまったことから、矢崎部長は、伊藤さんに責任を押し付け、トカゲの尻尾切りの如く知らぬ存ぜぬでいた事に立腹、抗議。そして、職場を追われた。
吉森さんは、その後、本部長の陰の尽力で会社組織に残ることは出来た。だが、精神的に追い詰められ、長く休職扱いだった。つい最近になって、やっと出社できるようになったのだった。
「吉森君には、思う通りにやっていいと請け負った。彼の尻拭いは矢崎にさせる」
「なにか、勝ち戦の匂いがします」
きっと、私がどうこう思うよりも前から、本部長は反撃の機会を伺っていたのではないだろうか。
「そうか?」
本部長はしれっとしてパンをちぎっては口に放り込み、ワインで飲み下す。
「それで、吉森さんとなにをするんですか?」
「吉森君は、暴露記事をどこだかに載せてもらう算段を済ましているそうだ」
記事…なら週刊誌?なに、そのツテ。
「会社には大打撃なのでは?」
うちあたりの規模の商社など、そんな弱みが出たら、どこかに簡単に吸収されてしまう。
「もちろん、それは脅しの道具だ。実際は、背任容疑で告発する準備があると言って、役員会議で矢崎を執行部から降ろす。吉森君の、詳細をまとめたレポートができ上がったところだ」
「本部長。私も一緒にやらせてください。矢崎部長がとことんしらを切ったら、言ってやりたいことがあるんです。経理の真山さんと辞めた滝沢さんに証言してもらいます」
「君の言いたいことは分かっている。奈美子君のことだろう?」
「はい…」
「その件は、レポートに追記させよう。証人としてその2人の名前はまだ出さない方がいい。だが、奈美子君の汚名返上まで食い下がろう」
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