8.策略

8/15
前へ
/310ページ
次へ
「余計な詮索。余計なお世話。下衆の勘ぐり」 そう言い返してソッポを向く。そして、ソイツに女の連れがいた事を思い出した。 「君、デート中に私なんかに興味津々でいて、彼女に怒られなかった?」 するとアイツ、真面目な顔になり、遠くに視線をやった。 「別に、デートじゃないですよ。あの人は彼女なんかじゃないから」 いいよ別に興味無いとも言えず。 「そう?残念ね」 と、返した。そこへ電車が入ってきた。 ホームのアナウンスと音楽、電車の稼働音で、ヤツとの会話は途切れた。 私は電車に乗りこみ、そのままズイっと奥に進み、ヤツから距離をとった。 彼女だろうがなんだろうが、どちらでも結構。お好きにどうぞ。でも、そうそうやたらと気軽に話しかけるのは遠慮してもらいものだ。 悪い人ではないと分かっている。でも、こんなふうに恋愛が進むって事を承知もしていて、今現在、恋愛する気がゼロな私には一番避けたい人物なのだよ、君は。 もうヤツの姿を探すことなく、電車に揺られた。 どちらかと言えば、スッキリした顔でオフィスに到着した。 コーヒーでも飲もうと、ユーティリティコーナーでインスタントコーヒーを入れ、デスクでマッタリしていたら、あや美が現れた。 「芽衣子さん、おはようさんです…あれ?」 「おはよう…なに?」 あや美がマジマジと私を見つめている。私の顔を横から下から、舐め回すかのように。 「芽衣子さんたら、今日、なんかちがうんですけど…昨日なんかありましたぁ?」 この手の質問が一番苦手だわ。私はため息をついて見せてから答える。 「一昨日からの食事が充実していたからでしょ」 と、無難に処理。 「ホントですかぁ?なんか、良い事無かったですかぁ」 あや美、しつこい。なんなのよ。 「ホントホント。それ以外のことなんて悩みばっかりよ。今朝だって、近所のやな奴から不倫だと指摘されて不愉快極まりなかったし」 あや美はキョトンとした。驚いていた。 「ふ、ふりん?芽衣子さんがですか?誰となんですぅ?」
/310ページ

最初のコメントを投稿しよう!

48人が本棚に入れています
本棚に追加