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ちょっと面倒だったけど、昨夜、本部長と一緒のところを顔見知りの男性に目撃されたことと、それをわざわざ問い質しに電車を合わせてやってきて、本人は親切心から苦言を呈したつもりなんだろうけど、見当違いだと振り切った事を話した。
「芽衣子さん…もしかして、あの日バスで見かけたあの男の人ですか?」
勘良く、あや美は言い当てた。
「そうよ。あの人」
「やっぱり、ストーカーなんじゃないですか?おかしいですよ、その人」
あや美は必死の形相だ。真剣に私を心配してくれているのだとよく分かる。
「今度会ったらガツンと言ってやるわよ」
大丈夫だと請け負った。が、あや美の心配顔はその日一日中続いたのだった。
役員会議には、社長と副社長、専務、常務などが一堂に会する。
オブザーバー的に、うちの室長クラスが招集される事もあると聞いていて、そんな時の室長の緊張は半端ない。
私は真剣に、その日その時の会議を盗み聞きする手段を考えていた。
執行部取締役員会議は、再来週の月曜日。室長も出席するとかで、確認できた。
場所は7階第1会議室。少人数なのに一番広い会議室を使うところが大袈裟というか権威主義的というか。
専務、常務の秘書たちが、開始前にペットボトルのお茶を用意する以外、関係者以外の立ち入り禁止。関係者でも途中の入退場を禁止していた。勿論、これに社長は含まない。
会議室は7階に二つあり、第2会議室は少し規模が小さかった。
私は、他部署の人間が潜んでも怪しまれない隙間はないか探ることにした。何せ、7階フロアは未知の世界。
総務部、営業部など、個別に訪ねて行くことはあるけれど、フロアのどこの隣に何の部屋があるのかなど、考えたこともなかった。
人事と経理、総務の塊の総務部は第1会議室から一番離れている部署で、廊下を挟んだその向かいに営業部と第2会議室がある。
総務部の隣はラウンジだけど、その横並びの第1会議室までの間に、ドアが少なくとも二つ並んでいたはずと、朧気ながら記憶を辿る。
『やっぱり今見てくるか』
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