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『どうしよう、今の音、営業部に届いたよね』
一番近い部署は営業部だ。電話は鳴っていたけど、概ね閑散としていたし、この音が聞こえない訳がない。
私は、たった1センチ押しただけの扉を閉め、扉に耳を充ててみた。
何も聞こえない。
灯りを消して、小部屋を後にすると、備品倉庫の扉に耳を当てて、廊下の様子を窺った。
特に何も聞こえないし、誰かがいる気配は感じられなかった。
私は備品倉庫をそっと抜け出すと、隣の第1会議室に滑り込んだ。
勿論、無人だ。どうやら誰の耳にも届かなかったようだと、ホッとひと安心した。脇汗が半端なかった。
見れば、小さな扉は白い壁と同色で存在していた。
折り畳み椅子は、20脚程が積まれていたらしく、それが見事に散らばっていた。
ここが6階のミーティングルームなら、この惨状を誰かに見咎められても言い訳は立つ。だがしかし、ここは7階、私にとってアウェーなのだ。
なので、素早くこの椅子を元通り積み上げなければならない。
「うわぁ…」
自分で作った余計な仕事だ。それも、本来の仕事などではなく、隠密にやらなければ。
焦っていたけど、そこで、私は閃いてしまった。
「あ、そうだ」
時間もないし、誰かに見つかる危険もある中で、私は白い小さな扉に近づくと、ドアノブを回した。カチッと音が鳴り、引くと軽く開く。
私は、しゃがんでポケットからハンカチを取り出した。手持ちのモノはハンカチのみだ。『大丈夫かな…』
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