8.策略

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『どうしよう、今の音、営業部に届いたよね』 一番近い部署は営業部だ。電話は鳴っていたけど、概ね閑散としていたし、この音が聞こえない訳がない。 私は、たった1センチ押しただけの扉を閉め、扉に耳を充ててみた。 何も聞こえない。 灯りを消して、小部屋を後にすると、備品倉庫の扉に耳を当てて、廊下の様子を窺った。 特に何も聞こえないし、誰かがいる気配は感じられなかった。 私は備品倉庫をそっと抜け出すと、隣の第1会議室に滑り込んだ。 勿論、無人だ。どうやら誰の耳にも届かなかったようだと、ホッとひと安心した。脇汗が半端なかった。 見れば、小さな扉は白い壁と同色で存在していた。 折り畳み椅子は、20脚程が積まれていたらしく、それが見事に散らばっていた。 ここが6階のミーティングルームなら、この惨状を誰かに見咎められても言い訳は立つ。だがしかし、ここは7階、私にとってアウェーなのだ。 なので、素早くこの椅子を元通り積み上げなければならない。 「うわぁ…」 自分で作った余計な仕事だ。それも、本来の仕事などではなく、隠密にやらなければ。 焦っていたけど、そこで、私は閃いてしまった。 「あ、そうだ」 時間もないし、誰かに見つかる危険もある中で、私は白い小さな扉に近づくと、ドアノブを回した。カチッと音が鳴り、引くと軽く開く。 私は、しゃがんでポケットからハンカチを取り出した。手持ちのモノはハンカチのみだ。『大丈夫かな…』
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