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「あのさ、この事。誰にも言わないでね。てかさ、四方堂君、本部長とまだ何か仕事があるの?」
他部署の部課長クラスと営業部員。素朴な疑問だった。
四方堂君は、唸りながらなにやら口篭る。
「言いにくいならいいよ」
私はそろそろオフィスに戻ろうと、四方堂君から離れた。
「早川先輩の件」
「え?」
四方堂君は、私との会話を続ける絶好のワードを投げてきた。
「滝沢さんのことと早川先輩のことで、知っていることは全部話せと本部長から言われた」
「へ?」
なんで四方堂君に?
「お前がちゃんと話さないから。本部長は、多分その辺りのことは俺も知っていると踏んで聞いてきたんだろう。お前だと人情が絡んで、滝沢さんを庇うだろ?」
「うわ…汚いなぁ、隠れて知ろうとするなんて」
私はプンプンと怒った振りをした。だが、本音のところ、別段怒りはなかった。本部長は、私に気を使ってくれたのだと理解していた。
「まぁまぁ」
四方堂君には、どちらの心情も分かっていたのだろう。その笑顔には一寸の心配気も含まれていなかった。
「…あれから、ちゃんと話せてなくてごめんね」
会議デスクに寄りかかると、気を取り直した風に真顔を作り、私は素直に謝った。
やっぱり、四方堂君と縁を切りたくはなかった。
体の関係なんかより、もっと大事な部分で繋がっていられたらと思う。友情とか。
「再来週、決着がつくと思うの。そうしたら、ちゃんと四方堂君に話すから」
だから、このことは内緒だよ、と椅子の陰に隠された扉を指差し、念を押す。
「うん、分かった。芽衣子、なんだか…短期間のうちに随分頼もしくなったな」
しみじみと私を見つめる四方堂君。そうだよ、私はやっとこさ、ひとり立ちしたんだよ。
「そうなら嬉しいけどね」
謙遜して、ニカッと笑って見せてから、今度こそ会議室を後にした。
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