9.収束

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7階から戻ると定時をかなり過ぎていた。オフィスに急ぐ。 すると、室長の周りに人の輪ができており、なにやら打ち合わせ中だった。 「戻りました」 私は輪に声を掛けると、丁度発言していたあや美が言葉を切り、私に振りかぶった。 「あ、やっと帰ってきた。芽衣子さんたらどこ行ってたんですかぁ?」 「ごめん、すぐ戻るつもりだったんだけど。皆でなにしてるの?」 すると、輪の中心の室長が答える。 「やぁ、実はね、四方堂君の送別会やろうって話よ」 ああ、なるほど。そう言えばあや美はずっとやりたがっていたな。 「四方堂君、忙しそうだけど、時間取れそうですか?」 私は大きく頷いて賛同の意を示し、輪の中に加わった。 室長と次長の他に数名のメンバーで、とにかく計画してしまおうということになったと言う。こちらのスケジュールを考えていたら、決まるものも決まらない、と。 四方堂君のスケジュールだけを確認してきたと、あや美。いつの間に?『あ、もしかして、さっきか』 「たまたま本部長室から出てきた四方堂さんを捕まえたんですよ」 なるほどね。 「異動から2ヶ月にもなるから、これを逃したら立ち消えになりそうね」 私も前向きに意見した。 「そうなんだよ。彼は長くここで頑張ってきたんだし、古巣を懐かしんでたまに寄ってもくれるし」 「そうそう。これからの、営業部との交流の橋渡しになったらなんて、ね?」 次長たち、こんなふうに思っていたんだ。営業部との確執について、少なからぬ懸念もあったのだろうか。 「そういうの、社内的に良くないですもんね…」 私はボソリと呟くに留まった。 皆、思いは同じなんだ。できることなら、上役たちには、誰かの足下を掬うような真似はして欲しくない。 それに、社内で争っている場合ではないのだ。他社との競争に負け、事業を縮小したり、大手に身売りする同業他社の話はよく耳にする。
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