9.収束

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四方堂君の送別会は、来週の金曜日になった。 さっき、四方堂君と顔を合わせていなければ、なんとなく気まずいような気分を味わっただろうなと思った。 相変わらずの私に、四方堂君は呆れて見せてはいたけれど、やっぱり優しかった。 本部長も、まさかセフレとは思わないまでも、彼と私の親密さをなんとなく見抜いていて、あの件の詳細を尋ねたのだろう。 『それにしても…』 こんなやり方しかなかったのかな、と率直に感じていた。 本部長が、だ。 なんかもっと、スマートな方法で矢崎部長を弾劾することは叶わなかったのか。 もしもの話をするならば、例えば弁護士。例えば組合。特に、早川先輩の件ならば、そういう所に訴え出たら勝てそうな気がする。 あ、でも。早川先輩自身にその気がなかったんだっけ。 それに、矢崎部長の不正行為は証明が難しく、多分、矢崎部長側派閥の役員たちがぐうの音も出ないほどの状況で追及する以外なかったのかもしれなかった。 結果的に、本部長にはその線しか打つ手がないとみて、ここまで時間が掛かってしまったのだろう。 さっき、折り畳み椅子を戻しながら、もしかしたら四方堂君には、私が会議を盗み聞きする事に気がついていたのではと思えてならなかった。いや、バレバレかな? でも、何も言われなかった。 本部長が、営業部に移った四方堂君にあっさりと全てを話すとは思えないけど。もしも話していたとしたら、あの状況、簡単に想像がつく。もしそうなら、『四方堂君、なんて思ったかな…』 再来週の月曜日まで、あの扉がそのままであれば、私は会議内容を聞ける。 悪巧みに近いかもしれなかった。 それでも、黙って待つことができなくなっていて、私を止められるものは最早何も無い状況だった。
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