9.収束

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四方堂君関連でもう一つ。奥さんの安定期に入る6月に挙式披露宴という話。 お腹が目立ってくるからキャンセルしたいという新婦の意向もあったが、『おめでたいこと』だからと、内々でやる事になったと聞いた。 ほぼ室長からの情報。それとついでのように、『松浦さんには二次会幹事を請け負ったからよろしくね』と宣った。 幹事役には、他に営業部から数名出るとのことなので、是非協力して事に当たってくれと業務命令の如く申し渡された。 営業部からねぇ。 室長は多分、四方堂君の所属課長とすり合わせたんだろうと想像した。『うちからも人を出すから』とかなんとか言って。 私なんかが出しゃばっては、四方堂君に気を使わせてしまいそう。 『まったく。ひとの気も知らないで』 宴は終わり、急ぐ者から帰っていった。私は酔い冷ましにコーヒーでも飲んでいこうと、のんびり帰り支度をして店を出る。 あや美は飲み過ぎて、同じ方向の者に連れられ帰った。 『あや美ったら、飲み過ぎるなんて珍しいこと』 喫茶店でコーヒーを一杯、お水を一杯飲んで出てきた。 飲み会では、結局、四方堂君と言葉を交わすことは無かった。なんとなく、話題を探しながらというのは違うなと感じていた。 四方堂君とは会議室でのことがあったから、普通の話題での会話が難しかった。 勿論、皆のように、結婚生活の話でも振れば、四方堂君は答えただろうけど。でも、それも、なんか違う気がしたのだ。 金曜日を越えて、一週間を無事に終えた。土日を過ごせば、月曜日はいよいよ役員会議。考えると緊張を感じる。 私は電車に揺られ、相変わらず窓に映る自分の顔を見つめ続けた。 緊張で強ばった顔が美しさの欠片もなくて、無性に悲しくなった。
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