1.厄日

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イタ飯屋へは一番乗りだった。注文してあった料理と飲み物は、既に準備万端で、待つほどのこともなく運ばれてくる。 10分も経った頃には、店内は満席になった。 あや美は超ご機嫌で、明日の忘年会の段取りや料理の内容を私に話していた。 『料理の方、期待してくださいね』と、自ら期待度満点アピール。よく喋ること。 それに、あや美の食べ方ったら…。 食べ物を口いっぱいに詰め込んで、もぐもぐと噛み下す食べ方。 前に注意した事もあった。『子どもっぽいからやめなさい』と。 それに対してあや美は悪びれることもなく、『子供の頃からこうだから』と、言われて気にするどころか直す素振りさえ見せない。 あや美の両親は共働きだった。若くしてあや美を産んで、親子3人が食べていくだけで精一杯だったと、いつか話してくれたことがあった。 三つ下の弟が産まれてからも、あや美の母の子育ては、常にスピードを要求されていたのだという。早く食べてと、口の中にご飯を詰め込まれ、もぐもぐしている最中に靴を履かされ保育園へと引っ張って行かれた。 速く歩いて、早くして、早く寝て…。 私にはとても乱暴な子育てに思えてならなかったが、あや美は、両親には感謝しかないと言った。大変な中、全力で私たちを育ててくれた、と。 あや美の食べ方を見る度にその話を思い出す。 そして、連想的に、嫌でも自分の両親のことを思い出さずにはいられなかった。 私の両親は、常にお金に振り回されていた。それは本人達のだらしなさから来るものだと、小学生の早いうちから私は気づいていた。
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