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感情が鎮まるのに時間は掛からなかった。悔しい気持ちはまだあるものの、冷静に考えれば、四方堂君が私を制したことは正しかったのだと思えてきたのだ。
『結果が全てを物語る』だ。本部長が勝ったとして、矢崎部長の醜態を知る必要はなかったのだ。
メーク道具はデスクに置いてきたバッグの中だったから、私はお直しもできず、涙でさっぱりとした顔でデスクに戻った。
同僚たちの視線を感じるものの、私の『何も無かったかのような態度』に便乗してくれているようだった。あや美もみちるも。
昼近く、やっと戻った室長の顔が青ざめていたことで、動議が起こったことは想像できた。その結果は?私が聞けるはずもなく…。
他の者には気づかれてないようだ。次長が室長に声を掛ける。
「随時長い会議でしたね」
室長は、うん、と返事をした。
すると、既に席についていた室長が、ハッと今思い出したように顔を上げる。
「あ、松浦さん。本部長から言伝てだった。調査会社の査定どうなった?後で報告に行ってきて」
後でって、いつなの?とは聞かなかった。私はすぐに席を立った。
本部長が来いと言うなら、あの件なのだ。
本部長室をノックすると、中からどうぞと声がかかった。
本部長は電話中だった。
室長の顔色とは正反対で、少し赤みを帯びた本部長の顔色から、対決の跡を見た気がした。
電話を切った本部長は、ソファーを指して、「座りなさい」と穏やかに言った。
「あの、本部長…」
私の言葉を掌で制して、本部長はため息をついてから言った。
「何はともあれ、万事解決だ」
本部長はそう言って、ニカッと笑った。私は、両手で口元を覆う。涙が零れた。
「良かったです…」
「まぁ、吉森君と用意周到に仕掛けたのだからね。私もここで返り討ちに合うわけには行かないと腹を括った甲斐があった」
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