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私は、衝立の向こう、ギタイの吉森さんを目で探した。が、いなかった。
『いろいろ後始末があるのかな』
ふと、自分を見つめる視線に気がついて、そちらに目を向ける。あや美が、眩しそうに私を見つめていた。目が合うと、目を瞬かせた。
私は今こそ、あや美に伝えるべきと、口を開いた。小さな声で。
「早川先輩の懲戒が解けたそうよ」
あや美は、ハッとして、それから満面の笑みで大きく頷いてくれた。
きっとあや美は、片時もこのことを忘れず、私の怪しい行動をずっと理解してくれていたんだと思う。
四方堂君もそう。皆で私を見守ってくれていたに違いない。ありがたかった。
その日の定時後、ひとり残業をしていたら、電話が鳴った。出ると、真山さんだった。
「あ、どうも…」
あんまり意外で、言葉がスムーズに出てこなかった。
「君から証言してくれって、いつ言われるかと待ってたよ。まぁ、でも。あの人が責任を取らされたということは、全て終わったということなんだね」
真山さんはやはり、早川先輩が思っていたような誠実な人なんだと思った。
早川先輩との歯車が狂ってしまっただけ。
「真山さんにはそうお願いに上がるつもりでした。でも、最強の助っ人が、全部引っ括めて解決してくれたんです」
私は大雑把な説明に留めた。真山さんにはそれで納得だったらしく、『お世話になったね』と言って電話を切った。
さっき、昼休み全部を使って、本部長から、自分が動議を発動した後に起きたことを掻い摘んで説明を受けた。
初め、矢崎部長はとぼけて躱していたが、突然、本部長への攻撃を始めた。
だが、吉森さんの作った資料に目を通していた社長は、これ以上の背任行為に目を潰れば、自身も加担の疑いをかけられる、との恐怖に抗えなかったのだと。
矢崎部長は後ろ盾を失った。
矢崎営業部長の処分は、刑事告訴は免れたものの、役職の解任はその場で決議されたのだという。
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