48人が本棚に入れています
本棚に追加
「あの…」
南雲さんは、立ち上がっている私の横をスルーして、あや美の席に腰掛けた。
なんかご機嫌?自分の席に戻り、南雲さんに向き合う。
「会議のやり取り、聞けなくて残念だったね」
私はビックリして、口をあんぐりと開けたまま固まってしまった。
南雲さんはクスクス笑っている。そして徐ろに、上着の内ポケットに手を差し込み、何かを取り出した。
「これがなにか分かる?」
小型のレコーダー、だね。それ、盗聴するやつ?
「南雲さん、もしかして…会議を録音して、聞いたの?」
まぁね、と、組んだ脚をブラつかせた。
今朝、南雲さんはあの場所を偶然通りがかったのではなかったんだ。
あの時のあのタイミングは、いろいろな思惑の者同士が一堂に会したということか。
「これの中身、君も聞きたいかと思って」
すごく聞きたい…でも。
四方堂君が、あそこまでして私に聞かせたくないと言ってくれた気持ち。本部長が、何より優先して私に会って説明を尽くしてくれたこと…。
『それだけで充分』だった。
私は俯いて首を横に振った。
「いいの?」
南雲さんには意外だったかもしれない。でも、『全てを知る』ことが必要だと思えた時と、今、状況は変わったのだ。すべては完結したのだから。
私は一応お礼を言った。
「わざわざありがとうございます。南雲さんにはお世話になっちゃって」
「お世話ってほどはないがね」
ふと気になって、私は改まって南雲さんに問い掛けた。
「あのぉ、それにしても、なぜ録音なんて?」
ふふん、と南雲さんは不遜な笑いを含んで、手にしていたレコーダーを振った。
「手土産だよ」
「は?」
分かるように説明してくれ。
南雲さんはなにやら上を向いて腕組みし、話しずらそうな躊躇いを見せた。
「どうしようかな。今話すつもりはなかったんだけど」
だからなんですか?
最初のコメントを投稿しよう!