9.収束

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「あの…」 南雲さんは、立ち上がっている私の横をスルーして、あや美の席に腰掛けた。 なんかご機嫌?自分の席に戻り、南雲さんに向き合う。 「会議のやり取り、聞けなくて残念だったね」 私はビックリして、口をあんぐりと開けたまま固まってしまった。 南雲さんはクスクス笑っている。そして徐ろに、上着の内ポケットに手を差し込み、何かを取り出した。 「これがなにか分かる?」 小型のレコーダー、だね。それ、盗聴するやつ? 「南雲さん、もしかして…会議を録音して、聞いたの?」 まぁね、と、組んだ脚をブラつかせた。 今朝、南雲さんはあの場所を偶然通りがかったのではなかったんだ。 あの時のあのタイミングは、いろいろな思惑の者同士が一堂に会したということか。 「これの中身、君も聞きたいかと思って」 すごく聞きたい…でも。 四方堂君が、あそこまでして私に聞かせたくないと言ってくれた気持ち。本部長が、何より優先して私に会って説明を尽くしてくれたこと…。 『それだけで充分』だった。 私は俯いて首を横に振った。 「いいの?」 南雲さんには意外だったかもしれない。でも、『全てを知る』ことが必要だと思えた時と、今、状況は変わったのだ。すべては完結したのだから。 私は一応お礼を言った。 「わざわざありがとうございます。南雲さんにはお世話になっちゃって」 「お世話ってほどはないがね」 ふと気になって、私は改まって南雲さんに問い掛けた。 「あのぉ、それにしても、なぜ録音なんて?」 ふふん、と南雲さんは不遜な笑いを含んで、手にしていたレコーダーを振った。 「手土産だよ」 「は?」 分かるように説明してくれ。 南雲さんはなにやら上を向いて腕組みし、話しずらそうな躊躇いを見せた。 「どうしようかな。今話すつもりはなかったんだけど」 だからなんですか?
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