9.収束

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月曜以来、我が社は嵐のただ中にいた。荒れ狂う波間の小舟の如く、社員は不安の中、大わらわだった。無論、矢崎営業部長の件で。 総務の事務方も、前代未聞の事態にてんてこ舞いだと聞いて様子を見に行くと、美波から、『あんたと遊んでる暇はない!』とキンキン声で言われてしまった。遊びに来たわけではなかったけど…。 恐らく、営業部は常務が兼務して統括するだろうと、翌日の朝礼で本部長が今後の見解を述べていた。 本部長は憶測でモノは語らない。それが当面の決定事項なのだろうと誰もが認識していた。 当の営業部は、数日の間、さすがに大変だったらしかった。帰宅できなかった者もいたらしかった。矢崎部長は翌日から出社していないらしかったし。 そして火曜の夕方、突如降って湧いたニュースにとにかく驚いた。あや美が総務から転がるようにすっ飛んで戻ってきたかと思うと、「南雲さん!」と叫んだのだ。 「え?」 恐らく、フロアーの各所で同様のニュースが飛び交っていたに違いなかった。 「辞めるって!3月15日付けで退職だって!芽衣子さん、知ってました?南雲さんと親しいんですよね?」 『南雲さんと親しいって…』あや美に南雲さんのこと、話してたっけ? 「別に親しくはないけど…いや、知らないって。だから、南雲さんのことは知ってるけど、退職?はい?」 みちるが、「なんでですかね?矢崎部長のことがあったからですかね?」と、至極まともな意見を言った。 それで、なんだかピンと来たことが。「手土産…」
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