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その後、伝え聞いたのは、南雲さんがヘッドハンティングだったこと。やっぱりか。
それも大手総合商社。泣く子も黙るような最大手。なるほど、手土産はある方が良かろう。奴め、録音はあの日だけではないのだろうな。
南雲さんは、退職まで未消化の年次休暇を当て、会社にはもう来ないとのことだった。『すっかり準備万端だったわけか』
南雲さんとは、なんだかあっけないぐらいの縁だった。あの時、南雲さんはこのことを言いづらそうにしていたのか。確かに言えはしまい。
そうそう。あや美がなぜ、私と南雲さんが親しいと勘違いしたのか、気になって聞いてみた。
「どうしてって、南雲さん本人が言ってたらしいですよ」
「え?本人が?誰に?」
そんな事実はないと説明した上で、あや美に事情を聞いたのだが。
「結構、多方面に。特に総務辺りです。四方堂さんも知ってますよ」
「へ?なによそれぇ…」
『はっ!』と閃く。虫除けだ。南雲さんの常套手段だったか…。
「違うなら、なんでそんなこと言いふらしてたんですかねぇ」
「そうだね…」
そうだった。すっかり忘れていたけど、私のこと『女として意識してる』って言ってたっけ。
なぜ、こんなことすら忘れてしまったのかと言えば、冗談としか思えなかったからだ。
まさか、本気じゃないよね。ほら、辞めたし、そのこと私に言わなかったし。そうそう『気の迷い』とも言ってたし。
こんなふうに男に気持ちを振り回されるのは嫌だ。なんだか南雲さんとは合いそうにないとはっきり分かってきた。
『早川先輩、美波…私もだよ』
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