10.深層

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支度の整ったテーブルを先輩親子3人と囲むと、お父さんがやおら話し出した。 「奈美子から聞いたのですが、この度は芽衣子さんにはひとかたならぬお世話になり、お礼の言葉もございません」 「いえ、そんな。私はなんにも…」 照れて、箸を持った手のひらを顔の前で振って見せた。 すると続けてお母さん。 「奈美子が懲戒処分だったこと、つい最近まで私達には知らされていなかったんです。びっくりするもなにも、すべて終わって、誤解は解けて懲戒は依願退職として処理し直されると言われて。親としてなにをどう考えて話せばいいのか…混乱してしまいました」 ご両親の混乱はとても理解できた。さぞかし驚いたことだろうし、誤解だろうが懲戒免職と知れば悲しく悔しくも思うところだ。 なのに、時は既に経っていて、全ては何人かの人たちの働きで解決したのだ。高まる感情は収めて、納得する他ないわけで…お察しします。 朝食を終えると、茶の間の縁側の、陽の良く当たる場所に座布団を敷いて、お茶を頂いた。 ご両親の姿はなかった。私に気を使わせないよう、別の部屋で寛いでいるのかもしれない。 「それで?芽衣子さん、聞かせてくれる?できるだけ詳しくね」 私は、もしかしたらご両親が聞いているかもとのわかりやすい視線を部屋の奥に向けてみた。先輩は、コクンと頷いて私を促した。ご両親に全てを聞かれても構わないと、その穏やかな瞳が語っていた。 先輩には、南雲さんと真山さんから聞いた話を中心に説明するつもりでいた。 「では、順にお話しますね。お正月に先輩と別れた時には、南雲さんが怪しいということだったので、私は仕事始めのその日に南雲さんと話そうと考えました」 「うん、そうね。芽衣子さんは直ぐにそうすると思っていたわ」 私は、南雲さんが直ぐに先輩への片恋を認めて事の詳細を打ち明けてくれたことを話した。 更に南雲さんは、真山さんの先輩への気持ちを疑っていたこと、悪意の入れ知恵をした張本人なのではないかとの見解を示してくれたことも話した。 先輩は驚いていた。なんだか、頭を下げて目が泳いでいた。なにか心当たりが?
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