10.深層

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南雲さんからヒントを貰って、翌日には真山さんと話した内容についても詳細を伝えた。 営業の矢崎部長に『企画室の早川さんが派遣社員と親しい』との情報を与えたのは、やはり先輩との別れを目論んでのことだと本人から聞き出したと告げると、先輩の目は寂しげに揺れた。 「そうだったの…別れ方があっさりだったから、なんかおかしいなとは感じていたけど…」 「でも、真山さんと向き合って、真山さんはずっと申し訳ないと思って来られたんだと、私はそう感じました。真山さんは、今回、証人になるつもりで、辞職の覚悟もして先輩への贖罪を果たそうとしてくれたんです」 私は、胸が苦しくなるほど、真山さんの罪悪感を感じ取っていた。あの落ち込みようと言い、話した後のすっきりした顔と言い、抱えていた苦悩に偽りはないと信じていた。 その後、本部長に掛け合うと、吉森さんと協力して矢崎部長を弾劾することになっていると聞き、先輩への不当解雇の件を動議に加えて貰ったことを話すと、先輩は目に涙を溜めていた。 「芽衣子さん…頑張ってくれたんだぁ…そこまでやってくれてたなんて」 大変だったよね、と涙声で私を労い肩を撫でながら涙を零した。 実際あった、会議室の盗み聞きの件は端折ろうかと思ったが、湿っぽくなったので、景気づけに、となるかどうか分からないけど、結局話した。 会議を盗み聞きしようと考えたことがまず先輩は驚くことで、そんな大胆な、と絶句しながらも興味深そうに聞いてくれた。 その後の四方堂君の妨害、南雲さんの登場。そして、私の悔し泣き。 早川先輩は、涙ぐみながらクスクス笑っていた。どこが笑いの箇所だったのか。 そして、南雲さんが会議を録音していたこと、他社に引き抜かれて退社するつもりでいた事も付け加えた。 「彼の優秀さは業界でも知られていたから、いずれそんな形で辞めるだろうなと思っていたわ」 先輩はしみじみと呟いた。
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