1.厄日

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暮らしを1人で全てを賄うのは大変だけど、節約して貯めた分が誰にも取られずに少しずつでも増えていくことに喜びを感じている。 だがそれは小さく儚い喜びで、いつか実家から困った状況を知らされ、それすら無心されるのではないかといつも小さく恐怖している。 だから、私はあや美のように、普通に親に感謝してはいない。 親達がどんな思いでそのような生き方をするのか、納得が得られない限り、親は私には切っても切れない足枷のような存在なのだった。 ランチタイムを20分残して、コーヒーを飲みながら、他愛のない話題で時間を潰す。 すると急な感じで、あや美が問いかけてきた。 「芽衣子さん、昨日、本部長からなんか言われましたよね?」 『 バレてるの?まさか、本部長から?』との心の声が聞こえたかのように、あや美は更に言葉を重ねる。 「芽衣子さん、昨日、顔面蒼白で本部長のところから戻ってきたし」 「あぁ…まぁ、ちょっと締められた程度よ」 私はあっけらかんと答えた。もちろん、気持ちの中ではだいぶ重荷となっている一件だったが。 支払いを済ませ社に戻りながら、あや美は、さっきから私を気遣うような目を向ける。なんか、変な想像してるんじゃないか?と突っ込むべきか悩んでしまうではないか。 すると、あや美は全く予想を上回る件について口を開いた。 「芽衣子さん、知ってます?女子トイレに泥棒が出たんですって」 私は驚いて、あや美の顔をマジマジと見つめた。 「どういう事?」 とっさの言葉。怪しまれるリアクションは取ってなかったと、我が身の振り方を一瞬振り返る。
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