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「真山さんと付き合い始めて、私は南雲さんからのアプローチがなくなったことを寂しく思うようになっていた」
「え?」
あ…真山さん、ドンピシャ。
「気がついた時には真山さんとの交際を後悔していたの…ホント、ひどい女よね」
先輩は、俯き加減で寂しそうに笑った。
「その時点で、真山さんと別れて南雲さんと付き合おうとは考えなかったんですか?」
そう単純な話ではないと思いつつ、その後の長い交際期間を思うと、時間を無駄にするよりはと私には思える。
「…結局、私の条件を飲んでくれるような奇特な人はいないとわかっていたからかな。真山さんは優しくて、大事にしてくれた。穏やかに時間を過ごせることがなによりだと、私は自分の気持ちに蓋をしたの」
「先輩…」
苦しかったのだろうと思う。一番好きな人とは結ばれないのが世の習いなのだろうか。
「それがバレていたなんてね。真山さんには悪いことしちゃったな…」
「ねぇ、先輩…私も結婚や出産は積極的にしたい方ではないけど、先輩は…どうしてそれほどにこだわるんですか?」
失礼を承知で、端からの疑問をぶつけた。
先輩は、そう思うよねぇと頷いて、私の疑問は尤もだと思わせてくれる。
コーヒーを口に含みゴクリと喉を鳴らして飲み下す先輩。答えづらいのは承知の上の質問なので、私は辛抱強く待った。
すると、先輩は決心でもしたように、コーヒーカップを置き、つと顔を上げると私の視線をしっかり捉え、ゆっくりとした口調で話し出した。
「…私ね、子供を産めない体なの。実は二十歳で卵巣を全摘しているの…癌で。以来、転移も考慮しながらの経過観察だったのよ。そして去年、子宮を摘出したの」
多分、私の顔は血の気が引いたように見えるだろう。取り乱しそうだった。それをなんとか踏ん張って、ゴクリと唾を飲み込んだ。
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