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あぁ…そうだったのか…でも、あの頃の先輩は、そんな深刻な事情を抱えている素振りを微塵も感じさせなかった。
単なる主義や拘りのために、結婚も出産もしないなどありえない。好きな人と何年も付き合っていたら、気持ちが変わることはごく自然のことなのに。
やっぱり、なにかがそうさせていたのだと考えるべきだった。
ふと、先輩のピンク色のポーチが常にトイレに置かれていた映像が浮かぶ。不正出血、あったんだ。
「なんにも気が付かなくてごめんなさい。先輩はおひとりでずっと闘って来られたんですね」
真山さんにすら話すこともなかった…。
「これは私の背負った宿命なの。きっと、結婚しなくても子供を持てなくても、幸せになれるはずと信じてきた」
産まないのと産めないのとは、全く別次元の話だ。経験のない私にも想像はできる。
宿命を受け入れて幸せになろうとしていた先輩。真山さんとはダメになってしまったけど、南雲さんとなら…どうだろう。
「…南雲さんに付き合いたいと言えなかったのは、なにか理由があったのですか?」
ふと、思いついたことを尋ねた。
「南雲さん?うぅん…彼は恐らく、私の条件を飲むような人じゃないでしょ?芽衣子さんも話したなら分かるんじゃない?」
私は、もしも南雲さんが条件付けをされたら…と考えてみた。
なんとなく、先輩の言っていることが分かった。
「そうですね。確かに」
私は苦笑した。それでも…今度もし、南雲さんに会うことがあったなら、先輩との事、聞いてみたいと思っていた。今の南雲さんなら…。
『でも、余計なお節介になるかな…』
お昼頃、私はご両親に挨拶をして先輩宅を後にした。お昼もどうかと勧めてくださったけど、流石に2食もご馳走になるのは申し訳なくて。
先輩と2人で外に食べに出た。
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