10.深層

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今夜はホテルを取っていた。たまには先輩とゆっくり過ごしたくて。 ホテルと言っても旅館ぽい和風の設えの小さなホテルだ。 もし、先輩さえ良ければだけど、一緒に泊まっても大丈夫なようにツインタイプの部屋を予約していた。 ランチは、駅近くまで車で戻った。この辺りで最近オープンしたばかりのフレンチレストランだと、先輩が意気揚々と案内してくれた。 通りの裏手ではあるけど、大きなビルの1階部分にお洒落な一角が人目を引いていた。 「実は私も初めてなの」 先輩は珍しくソワソワしながらメニューを開いていた。 『なんだかかわいい…』 先輩が職場を離れ、早2年になろうとしていた。先輩は、もう職場の先輩ではない。 勿論、先輩なんだけど…なんていうか、プライベートを知りすぎていて、もう友人というほど親近感を持っていた。 いや、友人というのはおこがましいか…なんと言っていいかわからないけど、先輩は、私にとってすごく大切なひと。ずっと大事にしたい関係という存在になっていた。 ランチは明るい店内とお洒落すぎるほどのセンスの良さで、ディープな話題はできそうになく。 軽めの話題でお料理を堪能した。 デザートとコーヒーをオーナーシェフ自ら運んでくれるのが、この店の売りだった。かなりのイケメンとの、先輩からの前情報は確かだった。 独身30女が2人、妙に浮かれてオーナーシェフのサービスを受けていた。後で冷静になって、少し恥ずかしく思ったけど、あんなことに弾けられるって単純に楽しいと思った。素直に嬉しい。 人生は素直に生きれば、ずっと楽しいものなのだ。
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