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「もしかして先輩のところ?」
「あ、うん、そう。今一緒に飲んでるところ。なんかあった?」
ラインでなくて電話というのが気になった。
「うん、急ぐ話でもないんだけど、実は南雲さんから芽衣子の携帯番号を聞かれてね」
「うそ。まさか番号教えたの?」
「南雲さんが、きっと芽衣子は構わないと思っているから大丈夫って。しつこくて、つい」
「教えちゃったのね」
私はため息をついた。
「やっぱ、ダメだよな、悪かったよ」
「仕方ないよ。あの人には誰だって負けるわ」
早川先輩によろしく伝えてくれと言って、四方堂君は通話を終えた。
私は、もう一度ため息をついて、先輩に電話の失礼を謝った。
「四方堂君、誰かに芽衣子さんの携帯番号教えちゃったみたいな話し?」
先輩の想像力というか、推理力はすごい。ふと、先ほど目にした先輩の部屋の本棚を思い浮かべた。ミステリー小説が多かったかも。
「はい、そんな感じです」
ホドホドに酔って、いい気分で部屋に戻ったのは、10時近かった。
先輩とは、仕事をしていた頃よりもずっと親密に話をしていた。変に構えることもなく、自然な感じで会話が進んだ。
交互にシャワーを浴びて、並んだツインベッドに横になり、ポツポツ話をしていた時に、先輩は、四方堂君との『今』を私に尋ねてきた。
酔いと眠気のせいで気が緩んでいた。
「もう、終わったことなので」
うっかり本音を漏らしてしまった。言った瞬間、ハッとして先輩の方を向くと、フットライトの灯りだけの薄闇の中で先輩がニンマリ笑ったのが分かった。
「ふふ」
先輩は可笑しそうに笑い声を漏らす。
「あ、と、えと…すみません…今まで嘘ついてました」
上掛けを口元に引き上げ、私はもう降参するしかないと悟った。
「いいのよ。嘘っていうか、言えなかったんだと理解してる」
そう言って、またも、クスクス笑っている。
「先輩、気づいてたんですか?」
「ううん、全然。でも、前にも言ったけど、あなた達、付き合えばいいのにって思ってた」
私は正直に自分の思いを吐露した。四方堂君との付き合い方、私の強がり、片思いすら散ったあの日のこと…。
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