48人が本棚に入れています
本棚に追加
「もう好きじゃないの?」
先輩の優しい声は、私の気持ちを撫で、癒す。話しながら涙が零れた。
殆ど、自分の傷は自分で舐めて治したつもりだったのに。
「四方堂君とは、友達として、これからも付き合って行けたらと思ってるんです。向こうがそう思ってくれるなら、その方が私は嬉しいかも」
「そっか。それなら大丈夫なんじゃない。私が保証する」
心地よい眠りに落ちて、翌朝目が覚めた時、昨夜は、先輩のこの言葉まで覚えていた。
私たちはチェックアウトギリギリまで寝て、遅い朝ご飯を食べてから高松駅で別れた。
別れ際、近いうちに東京に出掛けてきてくださいと先輩に言った。四方堂君が3人で飲もうと言っていたと。
先輩は『是非』と『四方堂君によろしく伝えて』と言った。
ことの真相は、先輩の懐深くにあった。2年前にも、この度にも、先輩の心は傷んだことだろう。真山さんのしたことと知って、何気ない風ではあったけど、傷ついたに違いない。
『先輩?先輩の心の傷はどうやって癒されるのでしょうか…』
帰りはマリンライナーに乗って岡山に出、のぞみで帰京した。東京に到着したのは6時半。
別れ際、先輩は、車があるから見送れないけどと言いながら、後部座席に置いてあった紙袋を私に手渡してくれた。お土産をわざわざ用意していてくれたんだ。それもたくさん。
私は高松土産を手に、とりあえず帰宅すると、すぐ隣のヤツのところへ行った。例のお土産の借りを返すため。
ところが、ヤツの部屋が分からない。『迂闊だった』
私は、文字通り頭を抱えてしまった。
仕方ないと踵を返して、アパートの敷地を出たところで、ばったり当の本人と行き合った。
「あ」
「あれ?」
なんか顔を見たら、わざわざ土産を渡すのが躊躇われた。私ってこんな天邪鬼だったっけ。
最初のコメントを投稿しよう!