10.深層

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高松に行ってきた。前にもらいっぱなしだったからと言い訳のようなセリフを吐いて、紙袋の中から適当に選んで渡そうとしたら。 「まぁ、そういうことなら」 いいからいいからと、腕を引っ張られて、部屋に連れ込まれた。ヤツの部屋は1階の端。私の部屋と植栽を挟んで隣という訳だ。 上がってしまってから、私は猛烈に抗議した。 「ちょっと!何考えてんの!?」 「まぁ落ち着いて。お茶ぐらい出させてよ」 「いや、私は帰ります」 上がっておいてなんだが、すぐ様Uターンして帰ろうとした。 「だめだめ、そんなんじゃ」 ピシャリと言い放つアイツ。 結局、広めのワンルームのそこそこ片付いた部屋で、私は正座してお茶を頂いた。 ベッドと机と本棚。少し離れた位置に2人掛けのソファーとテーブル。私は緊張感を持ってアイツと向き合ってお茶を啜っていた。 「高松って、実家かなんか?」 唐突に会話が始まった。 「…違うけど、説明するのがめんどくさい」 「なんか訳あり?」 「別に」 すると、ヤツはクツクツ笑い出した。 『なんだっての』多分、私はかなり喧嘩腰な顔つきだと自覚していた。 「なんかさ、警戒心すごいけど、俺って意識されちゃってる感じ?」 「ばっ!…かじゃない」 私は立ち上がりかけて、以前、本部長の前で醜態を晒したことを思い出した。急に動くのは危険。 足が痺れてないことを確認して、ゆっくり立ち上がった。 「それじゃ、お茶、ごちそうさまでした」 できる限り品よくお礼をしたつもりだ。アイツは、更に引き止めることはせず、ニコニコ笑って玄関まで送ってくれた。 「こちらこそ、お土産ありがとう」 そう言って、自分も部屋の外に出て、玄関ドアに寄りかかりながら私を見送っていた。 私が自分のアパートの敷地に入るまで、いやもしかしたら部屋に入るまで、そこで見ていてくれたんじゃないかな。 『なかなか紳士ではないか』 自室で荷物を解きながら、なぜかホッコリとしている自分に気がついた。
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