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高松に行ってきた。前にもらいっぱなしだったからと言い訳のようなセリフを吐いて、紙袋の中から適当に選んで渡そうとしたら。
「まぁ、そういうことなら」
いいからいいからと、腕を引っ張られて、部屋に連れ込まれた。ヤツの部屋は1階の端。私の部屋と植栽を挟んで隣という訳だ。
上がってしまってから、私は猛烈に抗議した。
「ちょっと!何考えてんの!?」
「まぁ落ち着いて。お茶ぐらい出させてよ」
「いや、私は帰ります」
上がっておいてなんだが、すぐ様Uターンして帰ろうとした。
「だめだめ、そんなんじゃ」
ピシャリと言い放つアイツ。
結局、広めのワンルームのそこそこ片付いた部屋で、私は正座してお茶を頂いた。
ベッドと机と本棚。少し離れた位置に2人掛けのソファーとテーブル。私は緊張感を持ってアイツと向き合ってお茶を啜っていた。
「高松って、実家かなんか?」
唐突に会話が始まった。
「…違うけど、説明するのがめんどくさい」
「なんか訳あり?」
「別に」
すると、ヤツはクツクツ笑い出した。
『なんだっての』多分、私はかなり喧嘩腰な顔つきだと自覚していた。
「なんかさ、警戒心すごいけど、俺って意識されちゃってる感じ?」
「ばっ!…かじゃない」
私は立ち上がりかけて、以前、本部長の前で醜態を晒したことを思い出した。急に動くのは危険。
足が痺れてないことを確認して、ゆっくり立ち上がった。
「それじゃ、お茶、ごちそうさまでした」
できる限り品よくお礼をしたつもりだ。アイツは、更に引き止めることはせず、ニコニコ笑って玄関まで送ってくれた。
「こちらこそ、お土産ありがとう」
そう言って、自分も部屋の外に出て、玄関ドアに寄りかかりながら私を見送っていた。
私が自分のアパートの敷地に入るまで、いやもしかしたら部屋に入るまで、そこで見ていてくれたんじゃないかな。
『なかなか紳士ではないか』
自室で荷物を解きながら、なぜかホッコリとしている自分に気がついた。
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